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最後のマルマル

アニメ・ゲーム・声優などに関する我楽多雑文。研究者兼大学講師をやってます。

研究課題「声優雑誌に表出された「豊崎愛生」像」(序論)

序章
 吉川弘文館が発行している『人物叢書』の「刊行のことば」に次のような一節がある。「歴史を動かすものは人間である。個人の伝記が明らかにされないで、歴史の叙述は完全であり得ない」。歴史という語を「アニメ」に、人間という語を「声優」に当て込めてみても、然程の違和感はない。
 今から数百年後には、多くの研究者が「平成の文化史」関連の研究を行っていることだろう。平成の文化を研究する上で、「アニメ」という文化はどのような位置づけを与えられているのか、個人的にも関心のつきないテーマであるが、無視できない研究対象であることは明らかである。既に指摘されている通り、例えば昭和戦後期の文化研究においても、古くは手塚治虫、時代が下っては『機動戦士ガンダム』など、アニメが社会に大きな影響を与えたことは少なくなく、これらアニメを取り巻く環境の考察をすることにより、当時の社会情勢を分析する一助となりうることは最早疑いの余地はない。(※1)。そして、そのアニメを研究する上で、声優という職種・個人もやはり看過することはできない(※2)。
 以上の点を踏まえて、本研究では未来の研究者に多少なりとも寄与する「資料(データベース)・雑文」をまとめ残すことも含め、声優一個人の実証的把握を声優雑誌というメディアから試みるものである。
 なお、本稿では各声優に対しては敬称略とし、〔 〕内は著者の注記とする。また、文章中の(※数字)は註を意味する。

(※1)社会に与えた影響の解り易い指標として、神田文人ほか編『昭和・平成現代史年表』(小学館、2009年)などの年表が参考になる。1981年のヒット映画の箇所に「機動戦士ガンダム」などの記述が見えている。
(※2)森川友義・辻谷耕史「声優の誕生とその発展」(『メディア史研究』Vol.13、2002年11月)において「「声優」は、テレビ・映画・ビデオ等の急増を背景として、現在ではマスメディアにおける重要な職業の一つとして認知されている」と冒頭で触れられている通りである。ただし、同論文は海外テレビドラマなどで活躍した声優に焦点があてられ、テレビアニメに関連した現在の声優については論文の「趣旨が異なる」としてふれられておらずさらなる研究の必要性も浮き彫りになっている。声優という用語については、同論文で「メディアを通じて、独自の創造力に基づき、言葉(時には歌唱を含む)により芸術を表現する人(55頁)」と定義されており、本稿もこれをとる。

■目的
①活字資料による豊崎愛生像の構築
(=多くの資料から豊崎愛生という人物を浮き彫りにする)
②確かな出典(活字資料)に基づく豊崎愛生の人物史の作成
(声優雑誌情報による年譜作成は可能か否か)
③声優雑誌が史資料として耐え得るか否かの検討
(あまり社会学的すぎず、歴史学的な構築を可能にする方法の模索)
④声優雑誌のみの情報から一個人の人間像・人物史の形成は可能かどうかの検討
(「Wikipedia」の「豊崎愛生」情報との比較・差別化)
④声優個人に対する学術的研究の可否
⑤肯定的感情を向けている一個人に対する知的好奇心の充足

■検討対象
豊崎愛生およびスフィア(※3)
 数ある声優の中から、豊崎(及び豊崎が所属するユニット)を検討対象として選択した理由については、豊崎が所謂「人気声優」であることが一因としてあげられる。「人気声優」の定義については、各研究者によって見解が異なるものと考えられるが、豊崎が「第4回声優アワード(※4)」で新人女優賞、「第5回声優アワード」で主演女優賞・パーソナリティ賞(W受賞)を受賞しているという実績や、声優雑誌『VOiCE Newtype』誌上で毎号行われている「ボイスランキング」で豊崎の名が上位に見られるようになることなどから(※5)、豊崎愛生が「人気声優」という枠組み内に位置づけられる声優であることは明らかである。
 また、著者の豊崎に対する好意的感情のみが理由では、学術的研究に堪えないことは重々承知しているつもりである。検討対象者に対する主観・先入観を極力排除し、客観的視点からの検討が望まれる。
 今後の課題としては、所属事務所である「ミュージックレイン」に関する検討があげられよう(※6)。事務所が行う所属声優への指導や売り出し方に、当該声優のキャラクター性が左右されることは十分に考えられる。また、大きな枠組みとして、豊崎を声優史のなかに位置づけることも、個人を研究する以上、必須の考察事項と考えられるが、現時点で発表者の手に余る課題であるため、別稿に譲りたい。

(※3)スフィア・・・ミュージックレイン所属の寿美菜子高垣彩陽戸松遥とともに結成した声優ユニット。同事務所が開催した『第1回スーパー声優オーディション』に合格した上記4人がのちに結成。2009年4月22日にシングル『FutureStream』でCDデビュー、2010年11月23日に日本武道館でライブを開催(声優界で最速)。
(※4)声優アワードとは「その年に最も印象に残った作品や対象に、その業績を称える本格的な声優のための顕彰式」(『VOiCE Newtype』NO.36(2010年3月)参照)。豊崎愛生の受賞に際する特集記事は、『VOiCE Newtype』No.36(2010年3月)と『同』No.40(2011年3月)を参照。
(※5)『VOiCE Newtype』No.33(2009年8月)の「ボイスランキング女性部門」では「10位(156票)」、『同』No.34(2009年10月)では「7位(242票)」、『同』NO.35(2009年12月)では「10位(119票)」、『同』No.37(2010年6月)では「1位(487票)」、『同』No.38(2010年9月)では「4位(323票)」、『同』No.39(2010年12月)では「4位(320票)」、『同』No.40(2011年3月)では「1位(530票)」。
(※6)参考となる記事として『声優アニメディア』第8巻第4号(2011年3月)「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション開催/ミュージックレイン・宮本氏に直撃インタビュー!!」など。「スーパー声優」の定義や、同社の声優に対するスタンスなどについては後述。

■検討時期
・当該研究の足掛かりとして、2009年4月から現在(執筆当時2011年6月)までを範囲とする。
 2009年4月に放送されたテレビアニメ『けいおん!』の平沢唯役で知名度を大きくあげたことにより、各声優雑誌への露出が多くなった(※7)。より多くの史資料の発掘の必要性を鑑みた場合、露出の増えるこの時期以降の検討が足掛かりとしては妥当であると考えられる。また、スフィアのCDデビューも同時期(2009年4月)であり、スフィア・豊崎個人の両面から考えた場合においても、上記の時期設定は妥当であろう。
 課題として残るのは、「2009年4月以前との比較検討(時間的変化)」である。この検討を行うことによって、テレビアニメ『けいおん!』が豊崎個人に与えた影響力の大きさについて、実証的把握がある程度可能となる。

(※7)一種の社会現象になったことが、声優雑誌誌上でも言及されている(『声優アニメディア』第6巻第8号(2009年8月)の記者の質問など)。

■検討史料
 本稿では、「紙媒体」として刊行されている「声優雑誌」に限りたい。当然、人々の「豊崎愛生像」は、テレビやラジオ、ネット(伝記的研究なら特にブログ〔日記〕は重要となる)、DVD(「特典映像」など)などあらゆるメディアを通して形成されていると考えられるため、他メディア媒体からの相互補完的検討は必須である。
 一方で、声優雑誌に表出された、あるいは浮き彫りとなった「豊崎愛生像」は、所謂豊崎ファンの「豊崎愛生像」とどれ程の差異があるのか、「豊崎愛生像」を構成する上での情報量が、声優雑誌一媒体で事足りるのか、などの課題は本稿で明らかにすることが可能であり、声優雑誌を使用した研究に一定の意義はあると考えられる。
 また、豊崎が若く、現在も活躍中の声優であることから、伝記的研究は好ましくなく、むしろ論点を声優雑誌というメディアに当てる必要がある。勿論、「あくまで声優雑誌に見られた豊崎愛生像」という前提は留意しなければならない(「事務所によって形作られたキャラクター像」という可能性も含む)。

≪本稿で使用する声優雑誌≫
声優グランプリ
 主婦の友インフォス情報社編集、主婦の友社発行の毎月10日発売の声優情報雑誌。1994年11月30日創刊。通称「声グラ」(せいぐら)。
国立国会図書館所蔵(未購入のものはそこで確認) 請求記号:Z11-B576

声優アニメディア
 月刊『アニメディア』の別冊雑誌として、2004年に季刊(年4回刊)で創刊された学研パブリッシング発行の声優情報雑誌。通称「声アニ」。
国立国会図書館所蔵 請求記号:Z71-M195

VOiCE Newtype』(以下、ボイスニュータイプ
 1994年創刊された角川書店発行(2002年以前は徳間書店)の声優雑誌。『アニメージュ』の増刊。創刊当初は季刊として発行、後に隔月刊となる。現在はおよそ3カ月おきに発行されている。
国立国会図書館所蔵 請求記号:Z71-R297

Pick-up Voice』(以下、ピックアップボイス)
 音楽専科社が発行している、毎月28日発売の声優情報誌。2007年にhm³ PRESENTS VOICE ACTOR MAGAZINEとして『Pick-Up Voice』の誌名で創刊、2008年、hm3 SPECIALを統合し、月刊化。
国立国会図書館所蔵 請求記号:Z71-T488

『B.L.T.VOICE GIRLS』(以下、ボイスガールズ)
 東京通信社が発行している声優雑誌。TV雑誌「B.L.T.」から、新シリーズのムック本として2010年1月創刊。
国立国会図書館所蔵 請求記号:Y94-J13719

『声優PARADISE』(以下、声優パラダイス
 グライドメディアが発行している、2010年6月に創刊された声優雑誌。「本当に知りたいリアルな“声”を届ける声優情報&インタビューマガジン」。
国立国会図書館所蔵 請求記号:Y94-J14851

≪具体的な作業方法≫
①まず、「豊崎愛生」と「スフィア」に関する記事を抽出(主にインタビュー記事を中心に)。
②さらに、豊崎の人物史・人物像に関わる部分を抽出。
③抽出した記事(文章)を、分類化。
④分類した資料を解析し論述。

■先行研究
 声優雑誌を資料とした研究、あるいは豊崎愛生を検討対象とした研究は管見の限り無い。
 声優の歴史やその職の内実についてふれられた概説的研究としては、勝田久『声優のすべて』(集英社、1979年)、高田城・千葉節子『声優になるには』(ぺりかん社、1983年)などがある。最近の研究論文では、森川友義・辻谷耕史「声優の誕生とその発展」(『メディア史研究』Vol.13、2002年11月)や同著「声優のプロの誕生‐海外テレビドラマと声優‐」(『メディア史研究』Vol.14、2003年4月)などがあげられ、本稿では論旨に直接的に関係はないが声優業界の全体像を掴む上で参考とした。
 以上の先行研究状況からも一目瞭然であるが、声優だけでなく、近時のアニメ文化に関する学術的研究は少ない。最近では、アニメ作品を日本における重要な文化資料として認識されるに至り、国会図書館などで資料収集が進められているが、同時に日本の大きな武器に成り得る「アニメ」あるいは「声優」に関する学術的研究の発展は今後より一層望まれよう。



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