最後のマルマル

アニメ・ゲーム・声優などに関する我楽多雑文。研究者兼大学講師をやってます。

第3章 豊崎愛生と家庭環境

はじめに
 特定の個人の人物像を考える際に、必ず念頭に置かなければならないのが、その人物の周囲の環境である。とりわけ、幼少期の家庭環境の重要性は言うまでもなく、幼少期の経験がその後の人生に大きな影響力を与えることは誰しもが実感しうる点であろう。
 本章でも、声優雑誌に表出された豊崎の家族・家庭環境に関する記事を資料に、その実態を浮き彫りにしていく。当然、声優雑誌というメディア特性上から、一定の限界があり、家族について言及されている記事が多くないことは留意されたい。

1.恵まれた家庭環境
 第一に指摘できる点は、豊崎は恵まれた家庭環境にあったという点である。豊崎は幼少期の頃の家族の想い出を以下のように語っている。

「実家にいた頃は家族でよく回転寿司店に行ってたし、毎年お正月にお寿司があるんですっ!」
(『声優アニメディア』2010年11月、117頁)

「子供の時、なぜか真冬に家族でキャンプに行ったことがあって(笑)。雪がすごく積ってて、めっちゃ寒かったけど、夜、空を見上げたら手が届きそうなぐらい星がよく見えて。あれは今までの人生の中で一番きれいな空でしたね」
(『声優アニメディア』2011年1月、114頁)

「初めて海外に行ったのは、小学生の時。家族旅行でアメリカに行きました。ロサンゼルスでは、親にお金をもらってひとりで外を散歩したんですよ~。「Hello」、「This one」、「Thank you」の3語だけで、頑張って綿アメとオレンジジュースを買いましたっ!!」
(『声優アニメディア』2011年3月、117頁)

 幼少期の頃、回転寿司やキャンプ、海外旅行に行くことが、「恵まれて」いたのかどうかは、個人の価値基準によるところが多いが、ある程度「裕福」であったことは認められるのではないだろうか。ここで「裕福であることが幸福であるか否か」という無駄な議論を提起したいわけではない。ただ、一定程度の富裕は、良好な家族関係の構築に必ずしも無関係ではないと考えられるのである。
 また、「豊崎家は喫茶店が大好きで、みんなでよく喫茶店に行ってきました。(『声優アニメディア』2010年8月、122頁)」と述べられているように、喫茶店にも家族でよく行っていたようである。「よく」という修飾語に家族間の仲の良さがうかがえるのである。喫茶店に関しては「お母さんが外で仕事をしていたので、子供の頃から朝は一緒に喫茶店でモーニングセットを食べていたりしたんです。だから、今でもあの空間が好きだし、コーヒー好きにもなったんだと思いますね(『ボイスガールズ』VOL.4、2010年11月、47頁)」とも述べている。幼少期の経験が、「今」の嗜好にも繋がっている一例であろう。また、喫茶店でモーニングセットを頻繁に食べている子供はそう多くはないのではないだろうか。豊崎は上京後も「よく喫茶店に行ったり」している(『声優アニメディア』第7巻第9号、2010年8月、122頁)。
 そして、豊崎自身もそんな家族に肯定的感情を向けている。『声優グランプリ』第15巻第6号(2010年5月)で「Q7地球最後の日には何をする?」という質問に対し、「家族とゆっくり夕ご飯します。メニューは父が作る“パパ鍋”がいいな。(9頁)」と、家族愛を覗かせるような受け答えをしている。勿論、声優・アイドルとしての側面から、以上のような受け答えをしていたことは十分考えられる。それでも、「パパ鍋」のような具体的料理があげられている所に、家族関係の良好さを垣間見ることができるのである。これが、全て豊崎の計算による虚偽の事実であったのであるならば、その緻密さを誉め称えるべきである。

2.「今」の豊崎に与えた影響
 豊崎といえば、声優としての仕事だけでなく、スフィアやソロでの音楽活動も充実しており、その全てが現在の「豊崎愛生」を構成していることは先に述べた(第二章参照)。「今」が形作られているのは、「昔」からの経験の積み重ねがあってこそである。それは、豊崎愛生という一個人であっても例外ではない。幼少期の経験が、「今」に繋がるものとして、豊崎自身も認識しているものが以下の記事に見える「絵本」である。

「私の母は保育士で絵本が大好きだったので、よく絵本を買ってきては、私に読んでくれました。そんな母の影響からか、小さい頃の遊びは、お人形を並べての絵本朗読会(笑)。今思うと、小さい頃の遊びが今のお仕事に繋がってるのかな~なんて思ったりもします。ちなみに、小学校の中学年まで、読者感想文は絵本でした(笑)。」
(『声優アニメディア』2010年2月、119頁)

 豊崎の絵本好きは、豊崎ファンには周知の事実であるが、それは豊崎の母親も絵本好きであったことと深い関わりがあったことが読み取れる。そして豊崎本人も「小さい頃の遊びが今のお仕事に繋がってるのかな~なんて思ったりもします」と述べているように、絵本的要素は、豊崎愛生の現在の仕事に繋がっているのである。
 「小さい頃の遊びは、お人形を並べての絵本朗読会」とあるように、他人(人形)に、声を届ける(朗読)といった点で、幼少期の絵本遊びが、声優という職業に寄与していたことは容易にうかがえる。しかし、豊崎がここで「声優」と述べずに「今の仕事」と述べたのには、声優以外の仕事にも影響を与えたいたことを示唆していたと考えられる。豊崎の仕事とは、「声を使った表現」、すなわち声優活動と音楽活動である。
 その豊崎の音楽活動、特にソロ活動においては、絵本的要素が色濃く反映されている。以下の記事は第二章で既に紹介した記事である。

「私は、歌を歌うことだけをやっている人ではなく、歌も声優の表現のひとつとして『言葉をメロディに乗せて伝える』という感覚なんですね。技術的には未熟 な部分だらけなんですけど、逆に、言葉を伝える仕事をしている人にしか歌えない歌があるんじゃないかなと思っていて。曲調的には、一対一でお話している感 じというか、隣で絵本を読んでいるような音楽にしたいというのは言わせていただきました」
(『声優アニメディア』2009年10月、42頁)

「私、歌は得意だと思ったこと全然ないんですけど、せっかく声優さんという言葉を伝える仕事をやらせていただいているから逆に私にしかできない歌い方―普段朗読したり台詞を読んだりしてる感じで歌うことはできるんじゃないかなと思って。なので基本的には聴いてくれる人とメロディにのせておしゃべりするんだみたいな気持ちでいつも声を出してます。」
(『ボイスガールズ』2011年5月、80頁)

 「隣で絵本を読んでいるような音楽」「普段朗読したり台詞を読んだりしてる感じで歌う」など、豊崎のソロ音楽活動における絵本的要素を読み取ることができる。
 そして、その絵本的要素は「歌い方」だけに見られるものではない。如実にその要素が見られるものとして、2011年6月4日に発売された、豊崎愛生1stソロアルバム「love your life,love my life」の初回限定生産版に付いてくる詩集があげられる。アルバム収録曲に対する豊崎自身の解釈が絵と詩で表現されているものであるが、表紙に「ぶん・え//とよさきあき」と見えるように、絵本の体裁が非常に強く意識されている。中身を見ても一目瞭然であろう。
 以上のように、豊崎の「今」の仕事(声優・音楽活動)のルーツの一つとして、幼少期に母親が買って読み聴かせてくれた「絵本」があり、多大な影響を与えていたことは疑いない。人に歴史ありとはよく言ったものである。
 勿論、「今」の仕事に影響を与えていたものは「絵本」だけではない。例えば、豊崎の音楽的素養は、家庭環境、とりわけ父親の影響も大きかったようである。

「ロックや童謡など、いろんな音楽が流れる家で育った私は、「なんてかっこいい音楽なんだ!」って、パブロックとかの、オールドロックを好きになりました。」
(『声優アニメディア』2010年5月、30頁)

「うちのお父さんが家でジャック・ジョンソンの曲をよく聴いている」
(『ボイスガールズ』2011年5月、81頁)

 他にも、豊崎が小学生時に、父親からアコースティックギターを買い与えられたことは有名な話である(『声優アニメディア』2010年5月、30頁)。豊崎の音楽への造詣の深さも「いろんな音楽が流れる家で育った」という家庭環境も大きな要因の一つとして考えられるだろう。その全てが、豊崎愛生の音楽活動(ないしは声優活動にまで)にまで影響を与えているのである。

3.家族への尊慕
 第二章において、豊崎のしっかりした人間性を示したものとして、以下の記事をあげた。

≪将来の目標「声優として、何か将来の目標みたいなものはありますか」≫
「私は今、こういうお芝居がしたいとか、あの人みたいになりたいとか、痩せたいとか(笑)、「なりたい自分」はいっぱい思いつくんですけど、突然何かが起こるというよりは、自分が気づかない間にじわじわと変わっていくのかなと思ってるんです。理想を思い描くことも大事ですけど、今できることから始めることで自分の夢がさらに広がっていくような気がします。道に咲いている花だったり、両親の言葉だったり、そういった身近なものから学ぶことが多いし、これからもそういうものを大事にしていきたいなと思います。」
(『ボイスニュータイプ』2010年3月、33頁)

 「両親の言葉だったり、そういった身近なものから学ぶことが多い」の一言に、家族への尊敬の念が込められているといえよう。また、上記の「両親の言葉」に関連するものとして、『声優アニメディア』の「あきずかん」では、次のような逸話が紹介されている。

「豊崎家には「感謝の気持ちを忘れないこと」とか「いつも笑顔でいること」とか、お母さんの教えが色々あるんですけど、その中に「元気がない時は空を見ること!」っていうのもあって」「〔徳島の空を〕ボ~っと見てるのが好きできた(笑)。」
(『声優アニメディア』2011年1月、114頁)

 豊崎のしっかりとした一面は、豊崎家のしっかりとした教育の賜物であったことも考えられるかもしれない。上記の記事は、『声優アニメディア』誌上で連載されている「あきずかん」というコラムに見えた逸話である。「あきずかん」は、豊崎愛生の好きなものを毎回テーマとして一つ掲げ、それに関わる具体的な対象物に対して、豊崎が逐一紹介・解説するといった内容になっているが、その「好きなもの」として「そら」をあげ、豊崎家(お母さん)の教えが思い起こされているのである。この「あきずかん」においては、豊崎愛生のパーソナルに関する近しい記事が多く、家族の話も他誌より比較的多くを見る事ができる。「あきずかん」を通読すると、家族に関する想い出と自身の好きな物が深く結びついていることが確認できるのである。

おわりに
 本稿では、声優雑誌という限定的な情報を扱った資料の中から、豊崎愛生の家族・家庭環境について述べられているものを抽出し、検討を試みた。決して、多くが語られているわけではないが、豊崎の仕事(声優・音楽活動)を通じ、「家族」に関する言及が多少なりとも見えていたことは注目に値するだろう。それらのほとんどが、幼少期の頃の家族の想い出であり、「今」の豊崎愛生像を構成する要素として、幼少期の家庭環境はやはり無視できないものであったといえる。
 本稿では、検討資料を声優雑誌に限っているが、例えばブログやラジオでの家族に関する発言を丁寧に見る事で、以上の点がより浮き彫りになるのではないだろうか。
また、家族に関する発言が、パフォーマンスであるという点も否定はできない。故に、本章での検討が、そもそも論として成り立たないことも指摘できよう。だが、それもまた「豊崎愛生像」そのものなのである。声優雑誌に「結果として」表出されていたのは、豊崎愛生とその家族の相互関係に関する肯定的イメージであり、そこから受容・形成される読者の豊崎愛生像もまた同様の肯定的イメージなのである。
 著者個人の見解としては、声優雑誌で述べられた豊崎の発言に論理的一貫性が認められることから、発言全てが嘘八百であるとは到底信じられない。自身の「負の側面」を歌いあげることができる彼女が(第一章参照)、家族への思いをストレートに語っていても何等不思議ではないのである。

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